ドクターコラム

2024.05.17更新

今日は産後の気分不調であるマタニティブルーズと産後うつ病についてお話します。

出産は素晴らしい喜びの経験であるとともに妊娠の終了を意味します。出産直後は気持ちも高ぶっていますが、産後数日から2週間程度のうちにちょっとした気分の変化が出現することがあります。この精神症状はマタニティブルーズといい、出産後の女性のなんと30-50%が経験することが分かっています。ですから誰でもなる可能性があるといえます。多くはふいに涙が止まらなくなったり、いらいらしたり、落ち込んだり、人によっては、情緒が不安定になったり、眠れなくなったり、集中力がなくなったり、焦るような気分になったりします。このような症状は一過性であり、産後10日程度で軽快しますのであまり心配することはありません。
原因としては、出産という人生の大仕事をやり切った後の当然の疲労、気持ちの変化、続く子育てのスタートが自分のイメージしていたのとは違っているように感じて等もありますが、より根本的な原因として、妊娠が終了したことで女性ホルモン(エストロゲン)が劇的に低下したなど内分泌環境の変化に伴ってこれらの症状が現れると考えられています。ですから、ある意味、急激に起こったホルモンの減少により引き起こされる、限られた一定期間だけの当然の症状であると言えます。自分はダメな母親だとか考えるのは的外れで、「雨宿りをするような感覚」でやり過ごしてしまいましょう。そして、当然のことながら、周囲の理解が大切です。
ただマタニティブルーズが長引く場合、産後うつ病に移行することがあります。症状の強い場合や、もともと精神科や心療内科に通院している人も要注意です。またうつ病の既往がない女性でも有病率が17%に及ぶとされており、気分の落ち込みや楽しみの喪失、自責感や自己評価の低下などを訴えます。重症化した場合には、自死や虐待、児との愛着障害を引き起こすことも少なくありません。産後の女性にとって最も注意すべき合併症の一つといえます。マタニティブルーズが通常は1-2週間でおさまるのに対し、産後うつ病は症状が2週間以上持続、3か月以内に発症することが多いです。発症の背景要因として、うつ病の既往の他、パートナーからのサポート不足など育児環境要因による影響も大きいとされています。妊娠中から不安やうつの問題がおこっている場合も少なくないため、妊娠中からケアを行う必要があります。当院では、産後の健診は1カ月健診だけではなく1週間健診を必ず行い、さらに必要に応じて頻回に診させていただいています。
また当院ではEPDS(Edinburgh Postnatal Depression Scale:エジンバラ産後うつ病自己評価票)を用いたスクリーニングを行い、産後うつ病の早期発見と支援をしています。EPDSは、産後うつ病のスクリーニングを行うためのスケールで、10種類の質問項目に対して患者さん自身が記入した結果を点数化します。EPDSはあくまでもスクリーニングであり診断することはできません。疑わしい場合を早期に発見し、速やかに適切に対応できることを目指します。そのような場合はまずは適切な診断がなされるよう精神科医に紹介させて頂きます。産後うつ病と診断されたら、それはれっきとした病気です。気のせいとか気の持ちようという問題ではありません。放置していたら悪化するばかりで、適切な薬物治療が不可欠です。そして治療には薬物療法だけでなく、パートナーをはじめとした家族や、医療スタッフ、地域の保健師などとの連携が重要となります。そうした行政機関との連携した支援なども当院でコーディネートしています。

少しでも不安なことがあれば一人で抱え込まずに遠慮なく受診して下さい。
当院はこの時期を非常に重要であると考えており、産後ケア(宿泊・日帰り)でのサポート体制もいち早く充実させています。また当院には、自身の妊娠・出産・子育ての経験に加え、豊富な臨床経験を有する優秀な助産師・看護師が大勢おります。辛い時は大船に乗った気分でまずはご相談下さい。
そして繰り返しますが周囲のご理解が不可欠です。ご主人様はじめご家族の皆様にも今回のコラムはご覧頂きたいと思います。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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