ドクターコラム

2023.09.29更新

今回は、漢方薬について少しお話させて頂きます。

漢方薬は中国の薬というイメージがあるかもしれません。しかし、現在、日本の医療で用いられている漢方医学は、2000年近く前、中国から伝わった医学が、その後、日本の風土や気候、日本人の体質や生活に合った医学として発展していった日本オリジナルの医学です。現在の医学部の教育でも必ず漢方について学ぶことになっています。従いまして西洋医学と漢方医学、両方の視点からその人にあった薬を処方するという日本の医療は、世界的にみても非常にまれなことと言えます。皆さん、日本にいて良かったですね。もちろん漢方薬と西洋薬を併用する場合、とくにカンゾウ、マオウ、ダイオウ、ブシなどが含まれている漢方薬には注意する必要がありますので、他に飲んでいる薬がある場合は必ずお知らせください。
漢方は良く分からないというお声を良く聞きます。実は漢方薬の作用機序については研究が進み、徐々に明らかになってきています。例えば風邪のひきはじめに効果を発揮する葛根湯ですが、発熱の急性期に炎症を誘導するIL(インターロイキン)の産生を抑制する作用を持っているため風邪の初期段階において炎症を抑える効果を発揮、また同様に免疫を司るNK(ナチュラルキラー)細胞の活性化を促すことで免疫を高めることが期待されています。このように漢方薬は漠然とした作用を期待するものではなく、西洋薬同様に確固たる作用メカニズムを有することが示唆されています。
漢方薬は食前または食間に服用するようにお願いしています。これは漢方薬がそもそも自然の植物などを原料とする生薬から構成されているので、食品にも含まれる様々な効用と相互作用を引き起こすことを懸念するためです。よく「お茶、ジュースなどで飲んでもよいか?」とのご質問もいただきますが、そのような意味でも漢方薬は水または白湯で飲みましょう。飲む前にうっかり食事を摂ってしまった場合も、慌てずに食間に内服して頂ければ結構です。ちなみに食間とは「食事中」ではなく「食事と食事の間」ということで、食後2時間以降くらいのイメージでいいでしょう。ただ漢方には人によっては胃に負担がかかるものがありますので、そのような方は服用後すぐに食事を摂っていただくようお勧めしています。
また飲み忘れた時はスキップで結構です。一度に2回分服用しないでくださいね。効果が強く出過ぎてしまう場合があります。

そろそろ猛暑の疲れが出るころですね。ご自愛下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.22更新

今日はPMSに対する抗うつ薬の治療についてお話をし、PMSのシリーズをおしまいにします。
月経前の2週間だけひどく気持ちが落ち込むなどの症状がピル等ではなかなかコントロールできない場合、抗うつ薬のSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)を使うとすごく良く効く場合があります。SSRIはセロトニンという脳内神経伝達物質の減少を抑える薬です。このセロトニンが足りなくなると、抑うつ、不安、緊張、イライラなどが高まりやすくなったり、痛みを感じやすくなったりするので、SSRIは主にうつ病の治療薬として使われているわけですが、PMSはうつ病ではないので毎日服用する必要はなく、症状の出る月経周期後半の2週間だけとかという使い方をします。抗うつ薬を処方されると「わたしうつなの?」とびっくりさせてしまうことがあります。くりかえしますが、うつではありませんが抗うつ薬の作用メカニズムがPMSに有効である場合があるというだけです。

ここ数回、月経前症候群(PMS:PreMenstrual Syndrome)についてお話させて頂いてきました。まず、PMSは「ホルモンバランスの乱れが原因ではなく排卵を抑えるといい」ので、ピル、中でも「ドノスピレノン含有」のものが良いと紹介しました。つぎに漢方薬についてざっと述べました。随伴する症状に合わせ、患者さんと一緒にオーダーメイド的に見つけていっています。そして、前回、利尿作用に着目したサプリの紹介もさせて頂き、今回抗うつ薬の話をしました。

最後に一番大切な日常生活です。
適度な運動、適切な睡眠が大切なことは言うまでもありませんが、特に食事について。
イライラすると甘いものが欲しくなるので、PMSの方は特に月経周期後半、チョコなど甘いものの摂取が多くなりがちです。甘いものを食べ過ぎるとその調整でダイエット、特に主食つまり炭水化物、タンパク質を控えてしまう方がいます。甘いものでは当然血糖値が上がり、炭水化物を控えると血糖値が下がります。この血糖値の変動もイライラの原因となるのです。アルコールの摂り過ぎも同様です。またタンパク質は、抗うつ薬のところで触れた脳内神経伝達物質セロトニンの原料です。ですからタンパク質を控えるということはセロトニンが足りなくなることに通じます。要は甘いもの、アルコールの摂り過ぎには用心して頂きながら、是非、きちんと三度三度の食事は適切に摂って頂きますようお願いします。

猛暑も出口が見えてきました。適度な運動を始めるなど生活改善にはもってこいの季節になります。無理のない範囲で出来ることから始めてみてはいかがでしょうか?
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.15更新

少し過ごしやすくなってきましたかね。

今日は月経前症候群(PMS:PreMenstrual Syndrome)治療のサプリについてお話させて頂きます。
サプリの話に入る前に、利尿薬(おしっこを出しやすくする薬)について。
PMSでみられる症状、月経前のむくみ、頭痛、乳房痛、お腹が張る、体重増加などはすべて不適切な水分貯留に関係しています。ですから尿をどんどん出してあげて水分を引いてあげればむくみなどが軽減しPMSに効果があるのではないかと考えられるわけで、実は利尿薬の中にはPMSの治療薬として認められているものがあります。しかし尿量の調整はとても微妙なので安易に利尿薬そのものを使うことはあまりありません。すこしややこしい話になります。9/1のこのコラムで「数多くあるピルの中で、黄体ホルモンの一種である『ドノスピレノン』含有のものがPMSに効果が期待できる」と述べましたが、このドロスピレノン、実は利尿薬であるスピロノラクトンの誘導体(体内で分解されてできるもの)なのです。さらに月経前の水分貯留と精神症状に関係ありとの報告もあり、利尿薬ひいてはドロスピレノンがPMSに効果がある理由と考えられています。いずれにしましても利尿作用のあるものがPMSに良いらしいということになります。そこで利尿作用のあるものとしてビタミンEが注目されています。ビタミンEには8種類ありますが、これまでのビタミンE製剤に入っていたのは主にα-トコフェロールというビタミンEでした。残念ながらこの8種類中で利尿作用の期待できるのは、αではなくγ(ガンマ)、つまりγ-トコフェロール、γ-トコトリエノールの二つ(合わせてγ-トコ複合体といいます)であることが分かっています。このγ-トコ複合体、7/26の更年期障害の治療としてこのコラムで紹介した豆腐などの原料となる大豆に含まれるイソフラボン製剤であるエクオールに含まれています。私は大塚製薬の回し者ではありませんが、このようにPMSにも効用があり、『エクエルプチ』(大塚製薬)は医院でしか手に入らないので当院で採用しているわけです。ピルはちょっと嫌だなという方にはお勧めしています。

今回もやや専門的な話になってしまい申し訳ありませんでした。分かりにくい点は外来で何でも説明しますから遠慮なく聞いて下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.08更新

今回はPMS治療に使う漢方薬についてざっと述べます。これはPMSの患者さんに使ってもらったら劇的に効いてとても喜んでもらったぞという私の個人的な処方経験を含みますし、相変わらずこのコラム、長すぎて読む気がしないというスタッフの不評もあり、あくまでもざっとです。ご覧くださっている先生方もいらっしゃるようですがお手柔らかに(笑)。

当院では婦人科3大処方と言われる、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸を基本にしています。当帰芍薬散は冷え、肩こりなどの方の血流を整えるのでPMSでも第一選択ですが、PMSはイライラ、落ち込みなどの精神症状がある方も多いですので加味逍遥散から始めることが多いかもしれません。精神症状がメインでない方は桂枝茯苓丸もいいでしょう。
これら3大処方で今一つの方は次のステップです。生理痛もある方には温経湯、桃核承気湯、不眠がつらかったら抑肝散、加味逍遥散で精神症状のコントロールが不十分だったら抑肝散加陳皮半夏、むくみが強い方には五苓散、喉のつかえがあれば半夏厚朴湯等々、手はたくさんあります。患者さんと一緒にオーダーメイド的に見つけていきます。全て保険適応です。
漢方薬は、食前に飲むのが効果的です。
次回、もう少し、PMSの治療について。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.01更新

前回、月経前症候群(PMS:PreMenstrual Syndrome)は「ホルモンバランスの乱れが原因ではない」、むしろ「ホルモンが正常で、きちんと排卵している方に誰でも起こりうる症状」である、したがって排卵を抑えてあげれば何とかなるというお話をさせて頂きました。今日は治療についてです。

排卵を抑えるといいので、まずはピル。(ピルの一般的な話は何回か前に更年期HRTのところで触れましたので興味ある方はそちらを。)ピルには排卵後に分泌される黄体ホルモンが含まれています。黄体ホルモンを投与することで常に黄体ホルモンが存在しているという状態となります。そして黄体ホルモンが存在しているという状態は排卵後の状態ですから、黄体ホルモンがあると脳は排卵は終わっっていると認識するわけです。つまりこれ以上排卵させる必要がないと判断するため排卵が抑えられます。
ピルにはエストロゲンの量の違いと黄体ホルモンの種類の違いで様々なものがありますが、数多くあるピルの中で、我々が参考にしている『OC・LEP(ピルのことです)ガイドライン』には、数あるピルの中でも「ドロスピレノン含有」のものがPMSに効果が期待できるとの記載があります。ドロスピレノンは黄体ホルモンの一種です。やや専門的な話になりますが、ドロスピレノンには黄体ホルモンの働きとともに、抗ミネラルコルチコイド作用と抗アンドロゲン作用という作用があるため、ニキビやむくみの予防や改善にも寄与すると考えられます。これはドロスピレノンが体内で分解され活用されていく流れの中で出てくる反応物質が、抗ミネラルコルチコイド作用と抗アンドロゲン作用という作用を持つためですが、実はまさにこの中間反応物質もPMSにドロスピレノンが有効な理由なのではないかとの説があります。当院ではドロスピレノン含有の「ヤーズ」というピルを処方します。

 PMSの治療、まだ漢方、サプリ、抗うつ薬など様々あるのですが、また長くなるので次回。
記録的な猛暑が続きます。お身体ご自愛ください。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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