ドクターコラム

2024.09.06更新

本日は妊娠中の出血について。
妊娠中の出血は心配になりますよね。出血の原因は様々で、時には緊急的に処置をしなければならないこともありますので、必ず速やかに受診いただくとして、可能性のある代表的な原因ついて簡単に説明します。

まず妊娠初期の出血ですが、多くの場合は着床つまり受精卵が子宮内膜に着床する際に起こる軽い出血です。通常2~3日で止まりますので心配ない場合が多いです。もちろん出血が流産の前兆であることもありますので、鮮血が続く、生理痛よりも痛い下腹部の痛みがある場合は特にすぐに受診して下さい。
妊娠中期~後期の出血は様々です。
まずは子宮頸管ポリープ。 良性の腫瘍で、少量の出血が見られることがありますが、妊娠中は経過観察することが多いです。次に切迫流産・切迫早産。これは子宮の収縮によるお腹の張りや痛みを伴う出血です。中には内側から子宮口が開いてきて今にも赤ちゃんが出てきそうになることもあります。超音波にて子宮の出口の長さ(子宮頸管長)を測定するなどして診断をします。いずれにしても子宮収縮、つまりお腹が張り過ぎていることが原因ですので安静が必要で、時には子宮収縮抑制剤を使うこともあります。
次に前置胎盤・低置胎盤。胎盤が子宮口をおおっている、あるいは非常に近い位置にあるため、ほんのちょっと子宮口が緩むだけで出血をします。この出血は大量に出る割には腹痛がそれほどでもないというのも特徴です。痛くないから大丈夫だろうなどと思わず必ず受診して下さい。もちろん定期的な妊婦健診の中で胎盤の位置は必ずチェックしていますので、前置胎盤・低置胎盤と言われなければ大丈夫ですから、ご心配なく。
ただ位置には全く問題ないのに突然胎盤が子宮壁から剥がれ出血を起こすことがあります。これが常位胎盤早期剥離です。前置胎盤からの出血とは対照的に、出血量はさほどではないこともありますが、お腹がものすごく痛くなります。もちろん胎盤が剥がれるということは赤ちゃんに送られる血液が少なくなるので緊急の対応が必要になります。

以上、今日は妊娠中の出血につきお話をしました。代表的なものだけでもこれだけ原因があるのですから、出血があった場合は自己判断せずに医師に連絡し指示を仰ぐことが重要です。
このコラム、これまでは皆さんにすぐにお伝えしたいことにつき毎週定期的に触れて参りましたが、大体お伝えしたので今後は不定期に必要があった時にお伝えするようにしましょう。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.08.30更新

本日は性器ヘルペスの再発について。

前回、性器ヘルペスはヘルペスというウイルスが原因であること、このウイルスには抗ウイルス薬があり速やかに使用することで重症化を防ぐことが出来ることをお話しました。そして抗ヘルペスウイルス薬はウイルスの増殖を抑制する薬剤ですからウイルスの数が少ない発症早期に使用すれば早く治ることが期待できるわけですが、残念なことにウイルスそのものを無くすウイルス薬は無く、軽快したとしても再発することがあることなどお話をしました。
いつ再発するかが分からないので、「一生ヘルペスに悩まされる」「違和感や痛みが心配」、「人にうつすかも」といったさまざまな悩みや不安を抱えながら日々を過ごされている方が多いです。こうした不安に加え困ったことは、再発の際は早期からHSVのウイルス量が増加するということです。つまり水疱が現れ、おかしいなと思った頃にはすでにウイルス量が増大しておりピークを迎えている可能性さえあります。くりかえしますが、抗ヘルペスウイルス薬はウイルスの増殖を抑制する薬剤であり、ウイルスをなくすお薬ではありませんので、治療開始時のウイルス量が出来るだけ少ない方が軽症で済むわけです。ですからおかしいと思った時にはなるべく早く受診していただき、ウイルスが少ない内に治療をお受けいただきたいのですが、そもそもすぐに病院に行けない場合もあるでしょう。
そのような方のために、あらかじめ処方し患者さんが再発の初期症状を感じたタイミングでご自分で服用開始するPIT(Patient Initiated Therapy)という服用方法が可能となりました。この方法で抗ウイルス薬を常に携帯して頂き、治療開始のタイミングを逃さないようにすることが可能です。PITはこれまでの受診タイミングより2~3日早く治療を開始することができ、ウイルス増殖のピークまでに治療を開始する理想的な治療と考えられます。
PITとしての抗ヘルペスウイルス薬の一つにアメナリーフがあります。アメナリーフはあらかじめ処方された薬剤をピリピリ、チクチクといった初期症状が現れたときに患者さんの判断で内服を開始する治療法です。

アメナリーフを処方する際は、はじめに再発性のヘルペスであることを臨床症状および病歴に基づき確認します。そして、ムズムズ等の再発の初期症状を判断可能な患者さんであることを問診等で確認し処方します。なおアメナリーフのPITでは年間再発回数に関する制限はありません。さらにアメナリーフには専用ケースがあり、専用ケースを開けば使用期限や服薬時の留意事項が一目で確認できる仕様になっており、安心して服用していただけると思います。当院でも処方しますので、ご相談下さい。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.08.23更新

本日は性器ヘルペスについて。

性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染によって、性器に浅い潰瘍または水疱を生じさせる疾患です。痛みやかゆみを伴うこともあり、時には排尿痛など重症化することもあります。このウイルスには抗ウイルス薬があるので、症状を緩和することは出来ることが多いのですが、困ったことに再発を繰り返すことが特徴です。HSVは初感染後、一時的に治ったと思ってもいなくなったわけではなく、神経節(神経と神経の接合部)に引っ込んだだけで持続的に潜伏し続けます。通常は自身の抵抗力、免疫の力などで、HSVが神経節から出てこないように抑えているのですが、疲れやストレスなどで免疫が低下したりすると、それが引き金となって再活性化しこの神経節より表面に出てきて再発病変を生じます。このようにHSVは一度感染すると体内からいなくなることはなく、生涯に渡り付き合っていく必要がある疾患です。
発症したら出来るだけ速やかに抗ウイルス薬を内服、塗布して頂くことが重要です。まずは抗ウイルス薬を5日間内服して頂きます。「出来るだけ速やかに」という意味は、抗ヘルペスウイルス薬はウイルスの増殖を抑制する薬剤ですので、ウイルスが増える前にできるだけ早期に治療を開始することが重要だということです。ですからおかしいと思った時にはなるべく早く受診していただき、ウイルスが少ない内に治療をお受けいただきたいのです。

病院にすぐには行けないということもありえます。「すぐに治療すれば重症化せずに済むことが十分に期待できるのに」ということで、次回は再発性器ヘルペスに対し事前に処方しておき、患者さんのご自分の判断で内服頂く新しい性器ヘルペスの薬の紹介をしましょう。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.08.09更新

前回このコラムで、
・RS ウイルス感染症は2 歳までにほぼ100%が感染する。つまりこのウイルスから逃れられる人はまずいない。
・多くの場合軽症で済むが、症状が出てしまっても治療薬は無く重症化するとコロナの数倍厄介である。
・ハイリスク児に対してのみ予防的に接種するワクチンはあるが、健常児に使えるワクチンは無いにも関わらずRSウイルス感染症で入院になる80%が健常児である。
というお話をしました。

そこで今回は、お子さんのために妊娠中のお母さんに投与するRSワクチンについて。
本年1 ⽉に「妊婦への能動免疫による新⽣児及び乳児におけるRS ウイルスを原因とする下気道疾患の予防」の適応で、組換えRS ウイルスワクチン(アプリスポ)が認可されました。妊娠24 週から36 週の妊婦さんに1 回0.5ml を筋⾁内接種することで母体の免疫を活性化させ、胎盤を介して赤ちゃんに中和抗体を伝えることにより、新生児および乳児におけるRSウイルス感染症を予防するということです。
妊娠中にワクチンを打つなんて、と心配されるのもごもっともです。
そこで妊娠前のお母さんにワクチンを接種するのはどうでしょう。この方法はお母さんの抗体価を上げお母さんの免疫を高めることは出来ます。しかし残念ながら抗体量は時間と共に減少してしまいます。問題なのは、RS感染症が重症化するのが生後1年未満、特に半年未満が多いので、この時期にお子さんに多くの抗体があることが望ましいわけですが、いつ妊娠が成立し出産となりお子さんがこの時期を迎えるかが分からないということです。妊娠前にせっかくワクチンを接種しても、妊娠後お母さんの血中にどのくらいの抗体量が確保されているかが分からないので、胎児に十分な量の抗体を送ることが出来るという保証はないということです。またこのRS感染症、以前は秋から冬の流行と言われていましたが、コロナ後は流行時期が無くなり、つまり1年中用心しなければならないウイルスになりましたので、接種に適した時期もないと考えられています。従いまして妊娠前の投与はあまり効果が期待できないので適応になっていません。
では出産後にお母さんに接種し、母乳を介して抗体を赤ちゃんに送るのは?という方法ももちろん検討されましたが、残念ながら有効性・確実性は確認されませんでした。
そこで妊娠中に接種するのが望ましいということになります。
安全性についてですが、早産、死産、低出生体重児、妊娠高血圧症候群等、接種しない場合に比べても有意な差はないことが分かりました。もちろん注射を打つことによるお母さんの疼痛等のデメリットはあることがありますが、これは一般的なワクチンと同じ範囲です。ちなみに現在リスクのあるお子さんにだけ投与しているワクチン(シナジス)の予防効果に比べると、この妊婦ワクチンは数倍高い濃度でお子さんの抗体価が上がることも分かりました。

ということで、当院でもこのワクチンを接種する体制は整えました。ただまだ公費負担には至っていないので、申し訳ないことに経費が35000円前後になると思われます。皆さんにお渡しするパンフレットも用意していますし、ちなみに、お子さんがICUに入院すると、平均的な入院日数の試算で、この間の医療費負担・親が働けないことによる経済的な損失等、実質的な経済負担が約13万円になるという試算も出ていますので、参考にして検討いただければと思います。 
※根本産婦人科は8/11-8/15休診となります。もちろん、この間も医師、助産師、看護師は24時間常駐してますので、特に妊婦さんは何か心配なことがあったら遠慮しないで電話下さい。
このコラムも次回はお休みです。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.08.02更新

5/31のコラムでRSウイルス感染症についてお話しました。読んでくださった方々からご質問を頂きましたので、5/31のコラムも参照して頂きながら、今日は再びRSウイルスについて。

まず「RS ウイルス感染症は、主に新生児~小児がかかる感染症で、⽣後 1 歳までに 50%以上が、2 歳までにほぼ 100%が初感染します。」と述べました。100%ということは、このRSウイルスにかからない人、つまりこのウイルスから逃れられる人はまずいないということです。子どもはこれらのウイルスに暴露しながら発達していきますし、特にこのRSウイルス感染症はほとんどの子が軽症ですみますが、重症化すると厄介です。ある施設からは、RSウイルス感染症の入院患者数はコロナの6.5倍、ICU入院となってしまった呼吸器感染症の50%がRSウイルス感染症であるという報告もあったそうです。小児科医の友人はRSウイルス感染症が一番やっかいという印象だと言っていました。
「その後の気管支喘息との関係性も指摘されています」とも述べました。ちょうど生後半年くらいでお母さんからの免疫が少なくなり、かといって自分の免疫も未だ十分ではない時期にウイルスに感染すると、分泌物やウイルスの残骸が肺の下気道といわれる末端に溜まります。この下気道は空気の通り道の末端で大変に狭くなっています。成人でしたら狭いとっても容易に閉塞することは無く感冒症状程度で収まることが多いですが、新生児の時はまだとても狭いので狭窄してしまうわけです。この下気道の炎症による呼吸器症状を細気管支炎といいますが、乳幼児の細気管支炎の80%の原因菌がRSウイルスです。狭い時期につまってしまった気道が成長しても広がらず、息が吸えない、吐けない、つまり喘息になってしまうことは容易に想像がつくことでしょう。
そこで、「問題なのはRSウイルスに感染し、症状が出てしまっても有効な治療薬は無いということです。ですから予防が重要になります」、「児に予防的に接種するワクチン(シナジス)が知られています」というお話もしました。ですがこのシナジスは、早産児や先天性⼼疾患など基礎疾患のあるハイリスク児に対してのみ保険適応があり、いわゆる正期産で⽣まれた基礎疾患のないお子さんには使うことが出来ません。しかしRSウイルス感染症で入院になるのは80%が健常児であるとの報告もあり、まさに健常児に対するRSウイルス感染症対策が求められてきたわけです。

そのため、妊娠中のお母さんに接種して母体の免疫を活性化させ、胎盤を介して赤ちゃんに中和抗体を伝えることで、新生児および乳児におけるRSウイルス感染症を予防する役割を果たすワクチンが開発されました。次回はこのワクチンについてもう少し。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.07.26更新

赤ちゃんは生後何日かすると顔や白目が黄色くなります。新生児黄疸と言いほぼすべての赤ちゃんに起こる現象と言っていいでしょう。この新生児黄疸、様子を見ていいものかどうかとご心配される方が多いので、今日は新生児黄疸についてお話しましょう。

この赤ちゃんの顔や眼球が黄染される黄疸ですが、主にビリルビンという物質が体内に蓄積することにより引き起こされます。ビリルビンは赤血球の中にあるヘモグロビンから作られます。赤血球が寿命を終え壊されると赤血球内にあったヘモグロビンが血液内に放出され、さらに血中に出されたヘモグロビンも壊れそこからビリルビンが生成されるというわけです。本来このビリルビンは血流に乗り肝臓に運ばれ、肝臓で分解され胆汁の成分になり、その後十二指腸や小腸を経て尿や便として排出されます。黄疸の強い子の尿の色が濃い黄色に変化したり、便の色が灰色っぽくなるのはこのためです。
残念ながら新生児の肝臓は未熟で、ビリルビンの代謝が効率的でないため、ビリルビンが体内に蓄積しやすくなります。こうしてビリルビンの血中濃度が上がると、ビリルビンは黄色い色素ですので皮膚や眼球を黄染するわけです。血中のビリルビン濃度が高い状態が続くと、ビリルビンが脳に及び核黄疸(脳性麻痺などを引き起こす可能性がある状態)に繋がることがあるため、早期発見・早期治療が重要です。
生後数日から2週間程度で、多くの赤ちゃんが一時的な黄疸を経験します。これを生理的(心配ない)黄疸と言います。赤ちゃんの肝臓が成熟すると、ビリルビンを上手に代謝されるようになるため黄疸は自然に消えていきます。また母乳育児中の赤ちゃんに見られる黄疸の一種に母乳性黄疸があります。母乳に含まれる成分が赤ちゃんの肝臓の働きを抑え、ビリルビンが分解されない状態が続くために起こります。通常生後1ヶ月から3ヶ月まで続くことがあります。ほとんどの場合問題ありませんが、黄疸が消失しない場合などはご相談下さい。いずれにしても赤ちゃんの成長と肝臓機能の発達に伴い黄疸は治まることが多いですが、症状が続く場合は早めに医師に相談しましょう
黄疸が長く続く場合は病的黄疸の可能性があります。病的黄疸は基礎疾患によるものです。例えば赤血球の異常、感染症、肝臓・胆管の疾患、母体からの抗体の影響などが原因となります。症状が長く続く場合は、医師に相談して下さい。病的黄疸かどうかは、黄染の程度、期間だけではなく、血中のビリルビン濃度を測定し判断します。ビリルビン濃度には日齢に応じた基準がありますので、その基準を超える場合には治療が必要な黄疸と判断されます。
治療はまずは光線療法。ビリルビンは特定の波長の青色光で分解されます。この波長は日光にも含まれますので、昔の人は黄疸が強い子は、お日様に当てれば治るということを知っていました。ただし、今は日光に当て過ぎた場合の不利益も分かっていますので、この波長を出す特殊なライトを保育器内で丸1日当て、ビリルビン値を下げます。下がりが悪い場合、元々のビリルビン値が基準よりもとても高い場合は基礎疾患検索・治療、また交換輸血となります。交換輸血とは、赤ちゃんの血液を一部交換することでビリルビンが減少することを期待するものです。

いずれにしても、判断に迷う場合は医師にご相談下さい。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.07.19更新

うっとおしい梅雨もあと少しでしょうか?
前回まで数回にわたってRSウイルス、梅毒、劇症型溶血性レンサ球菌感染症など、このところ増えてきたのでご注意頂きたい感染症についてお話してきましたが、この間にもう一つ、手足口病流行の兆しが顕著になってきました。近年大きな流行がなかったので、逆に感染したことのない方が増え一気に広がっていると考えられています。流行はあと1か月ほどは続く可能性があるようですので、今日はこの時期としては過去10年で最も多くなっている手足口病について。

手足口病は、コクサッキーウイルス、エンテロウイルスなどといったウイルスに感染することにより、口の中や手足の水疱性湿疹や発熱といった症状があらわれます。英語でも hand, foot and mouth disease と言います。同じなんだな、というよりは日本語名が安易な直訳なの?と思ってしまいますが、いずれにしても発症する部位を現わしています。保育園や幼稚園での集団感染がニュースで話題にのぼることが多いことから分かるように、子どもに多い感染症という印象です。
とはいえ、大人は絶対に感染しないというわけではありません。飛沫感染や接触感染、排せつ物からの感染などが経路として考えられるため、小さな子どもがいる家庭では、大人であっても手足口病にかかってしまったお子さんからうつることがあります。
ですので、特にお子さんがおられる妊婦さんには正しい知識を持って頂きたいと思います。まず、妊娠中に手足口病に感染してもウイルスそのものが赤ちゃんに影響を及ぼすことはないとされていますのでご安心を。ただし、妊娠中の手足口病感染は症例数が少なく大規模な研究成果はまだありません。従いまして胎児異常との正確な因果関係も医学的にはまだ未知であると言えます。ですから念のための注意は必要です。
残念ながら手足口病には特効薬がまだありません。が、症状は軽く、経過観察しながら自然に治まるのを待ったり、必要に応じて症状にあわせた治療を行ったりすればこと足りるケースがほとんどです。内科など別の病院を受診するときは必ず妊娠中である旨伝えてください。
治療薬はありませんので、いずれにしても予防が大切ということになります。手足口病は接触感染や飛沫感染によって広がるため、まずは基本的な風邪予防、つまりうがい、手洗い、マスクですね。親子ともども励行しましょう。
その上で特にお子さんが手足口病にかかっている場合、排便後にはとくにしっかり手を洗うように伝えましょう。手足口病は症状がなくなったあともしばらくはウイルスが体内に残っていますので、治ったあとも数週間は体液や便からウイルスに感染する可能性は否めません。特にお子さんがおむつをしている場合、おむつ交換時にはマスクやビニール手袋を使用する、外したおむつはすぐに包んで家の外のゴミ箱に捨てるなどして、家の中にウイルスが残らないように工夫をしましょう。吐しゃ物の片付けについても同様です。またタオルを分けるということも重要です。家族全員でひとつのタオルを使用しない、お風呂で一緒のお湯につからない、といったことも手足口病の対策になります。

妊娠中は抵抗力が低下していますので、特にお子さんがいらっしゃる妊婦さんは一応気をつけておきたいですね。妊婦さんが手足口病に感染する可能性は決して高いわけではなく、たとえ感染したとしても自然と治まる場合がほとんどです。心配し過ぎることはありませんが、心配しすぎず安心しすぎず、心配な時はいつでも医師にご相談ください。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.07.12更新

今年になり症例数が増え報道が多くなってきているせいか心配されている患者さんが多くおられますので、今回は劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)についてお話しましょう。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、溶連菌の一種であるA群溶血性レンサ球菌が原因で発症する感染症です。通常は無症候のことも多く、ほとんどは咽頭炎や皮膚の感染症にとどまります。しかしまれに、血液、筋肉、肺など通常は細菌が存在しない組織にまでレンサ球菌が侵入してしまいますと感染が全身におよび、急激に症状が進行し重篤な状態となることがあります。発症すると短時間でショック、多臓器不全に至り、30%という高い死亡率が報告されています。致死率が非常に高く、短時間で急激に進行するので、「人食いバクテリア」と呼ばれます。今年の患者数は1000人を超え、統計を取り始めてから最多だった去年の941人をすでに超えています。そして5人の妊産婦の死亡が報告されています。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は稀な感染症であり、A群溶血性レンサ球菌に感染しても必ずただちに重症化するものではありません。ですから重症化する場合の早期の診断と適切な治療が重要です。急速に広がる皮膚の赤みや熱感・腫れがある、痛みの程度が強い、または赤みのある部位を超えた痛みがある、意識がはっきりしない、などの場合にはためらわずに受診してください。
言うまでもなく予防が重要になりますが、この劇症型溶血性レンサ球菌感染症に対する予防ワクチンは残念ながらまだありません。従いまして原因菌であるA群溶血性連鎖球菌の感染経路を遮断することが何より大切です。A群溶血性連鎖球菌は接触感染と飛沫感染によって伝播しますので、これまで通りの感染対策、つまりうがい、手洗い、マスクの徹底をお願いします。また上に述べました通り、「通常は細菌が存在しない組織に侵入することで、急激に症状が進行し重篤化する」ので、傷ができた場合にはそこから体内に入らないように傷をきれいに保つようにして下さい。

感染者数が増加したはっきりとした原因はまだ分かっていません。いまのところ、新型コロナが5類化し感染対策が緩和したことに加え、インバウンド・アウトバウンドにより病原性が高い株が国内へ入ってきた影響が要因の一つとして考えられています。妊産婦の感染につきましても、新型コロナの感染対策が取られていた3年間は死亡例はありませんでしたが、感染対策が緩和されたとたんすでに5名の死亡が確認されているのです。感染経路をみると、特に妊婦は7割以上が鼻やのどの「上気道」からの感染が推定されたことから、新型コロナが感染拡大していた期間は、マスク着用や消毒、手洗いなどによって感染が抑えられていたことが考えられます。繰り返しますが、特に妊産婦さんは引き続きこれまで通りの感染対策、うがい、マスク、手洗いをお願いします。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.07.05更新

先々週、先週と、今、急増している性行為感染症、梅毒についてお話してきました。未治療で放置すると神経、心臓、血管の症状が現れることがあること、初期には症状が出ないためごく普通の生活をしていても入ってくる感染症だと思わなくてはいけないということ、そして治療などにつきお話しました。

今日は梅毒シリーズの最後、妊娠中の梅毒感染症について。
梅毒の感染が急増していることはすでにお話しましたが、この傾向が実は10〜20代の女性に特に顕著であることが分かっています。つまり妊娠中のお母さんが実は梅毒に感染していたということが少なくないということです。妊娠中の感染症は赤ちゃんに移行する可能性もあるため注意が必要です。通常、お母さんが何らかの感染症にかかってしまってもその病原菌は胎盤によって阻止されるので、多くの場合感染が胎児に及ぶことはありません。しかし残念ながら梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマは胎盤を通過してしまうのです。ですから母体が梅毒に感染していた場合、梅毒トレポネーマは胎盤を介して胎児に移行してしまいますので、胎児感染が起こる可能性があります。胎児に感染する可能性が高まる時期ですが、胎盤が完成するのは妊娠5ヶ月以降ですから、感染時期はほとんどの場合妊娠5ヶ月以降です。逆に胎盤が完成する前の妊娠4ヶ月より前の時期には感染が起こりにくいとされています。なので妊娠初期には妊婦さん全員に対して必ず血液検査で梅毒のスクリーニング検査を行います。赤ちゃんへの梅毒の感染は胎盤が完成する前の時期には起こりにくいので、感染が確認されても妊娠5ヶ月までに治療を開始すればいいわけです。
治療をしなかった場合には流産・死産のリスクが高まりますし、無事に出産に至ったとしても赤ちゃんに感染の症状が出ることがあります。赤ちゃんには発育不全、皮膚や骨の異常、知能や運動の異常などが起きる可能性があり、このような母児感染による梅毒感染を「先天梅毒」といいます。近年この先天梅毒の報告数も増えており、さらに梅毒に感染するとHIV感染症の発症リスクが上がるといわれていますので早めの検査・治療が大切です。。
治療はペニシリン系薬剤であるアモキシシリンを梅毒の第1期で2~4週間、第2期で4~8週間投与します。治療で使われる抗菌薬は、胎盤を通過して赤ちゃんに対しても作用することを期待して投与されるため、赤ちゃんに安全な薬が選択されます。
感染したママから生まれた赤ちゃんに梅毒があるかどうかを判断するには、身体診察を行って赤ちゃんに潰瘍や発疹がないかを調べます。赤ちゃんに潰瘍や発疹があれば、発疹部位より組織を採取したり、臍帯血や赤ちゃんの血液を検査し、梅毒の有無を確認して調べます。新生児・乳児・小児が感染している場合の治療は、ペニシリン系薬剤の静脈内または筋肉内注射をします。
なお、母乳による感染を心配するお母さんもいますが、母乳からは感染しません。

以上、三回にわたり急増している梅毒についてお話しました。あまりなじみのないお話であったかと思います。ご自身、大切な方、特に赤ちゃんを守るために、正確な情報を身に着け、適切な行動をお願いします。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.06.28更新

先週より、現在の安易な性活動により急増が見られている梅毒についてお話しています。マッチングアプリ、SNSに影響された風潮からの爆発的な感染拡大が起こっており、ある調査では「9人に1人」が梅毒はじめクラミジア、りん病など何らかの性感染症にかかったことがあるという驚くべき結果もでているほどです。特に梅毒に関しては、最新のデータでの感染者数が、現在の方法で統計を取り始めた1999年以降、過去最多となっています。

前回は症状等について触れましたが今回は検査、治療等について。
まず「予防法」。梅毒は性感染症、スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマという病原体の感染が原因です。性行為感染症ということは感染経路が性行為であるということですから、この原因菌に暴露しないようにコンドームを使用することがとても重要なことです。ちなみに避妊のためにピルを飲んでいてもそれでは性感染症は予防できません。性交時にコンドームを装着することが感染予防に繋がります。
そして「検査」。血液検査などで比較的感染初期から診断することが出来ます。ただ先週お話した通り、感染初期には症状が出ないことが多いですから、症状が無くても心配な時は速やかに検査を受けて下さい。特にパートナーに梅毒の感染が判明したら、自分も梅毒に感染している可能性があります。早めに検査を行い、陽性であれば必ず治療を行いましょう。治療は2人同時に行わないとパートナー間で感染を繰り返す(せっかく治しても行ったり来たりするのでピンポン感染といいます)ことになるため、早めの治療を心がけてください。性感染症で病院を受診しようかと思っても、「恥ずかしい」「受診すべき症状かどうか」「どの医療機関にかかるべきか」などというハードルがあるかと思います。医師がどこでうつったかなどということを聞くことはありませんので、心配せず、病気を治すために来ていただきたいと思います。婦人科以外でも泌尿器科、性病専門クリニック、そして保健所でも受けることができます。
次に「治療法」。梅毒トレポネーマという病原体の感染が原因ですので、この菌に対する抗生剤であるペニシリン系薬剤(アモキシシリン)を数週間内服するという治療となります。最近では1回の注射でも治療が可能になっています。梅毒は初期感染の段階で治療を行うと完治できる病気ですが、進行すれば神経症状、心臓や血管の症状が現れ菌に対する治療だけでは収まらない場合もあります。早めの検査、診断、治療がのぞまれます。最近ではネットなどの情報から自分で判断して、自分で的外れな抗菌薬を使用し一向に治らずやっと受診するなどのケースが見受けられます。抗生剤は原因菌に対して効果のある抗菌剤等を使うことが大事ですので、関係ない菌に対する抗生剤を延々と飲んでいても治るわけがないということになります。また量、服薬の期間、そして効果判定も重要です。全然合っていないと、治るものも治らないということになります。

次回は妊娠中の梅毒感染についてお話しましょう。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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