ドクターコラム

2023.12.22更新

「月経困難症の原因②子宮腺筋症〜女性が知っておきたい疾患〜」

このところ月経困難症についてお話させていただいています。いわゆる生理痛のことですが、生理のたびに強い痛みなど生活に支障が出るほどになったら月経困難症ですね、ということは以前に述べました。この月経困難症の原因として、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症などがあり前回の子宮筋腫に続いて、今回は子宮腺筋症について述べます。

子宮腺筋症は一言でいえば「子宮の筋肉が厚くなる」疾患です。子宮筋腫は子宮の筋層に筋肉の瘤(こぶ)が出来ますが、子宮腺筋症は子宮の筋肉そのものの全体または一部が厚くなる状態です。子宮筋腫と同様に良性の腫瘍でがんではありませんが、女性ホルモンによって大きくなりますので少なくとも月経のある間は子宮筋層が厚くなり、結果として子宮全体が大きくなる可能性が高いです。原因としては、子宮内膜のような組織が子宮筋層に発生し、そこに女性ホルモンが作用し病変部位およびその周囲の子宮筋層が肥厚する、などが考えられています。この子宮腺筋症病変による子宮内膜の拡張・変形、子宮筋の線維化による子宮収縮のアンバランス化などで、子宮収縮が異常に亢進し、月経過多、不正出血、月経困難などの症状が引き起こされることが想定されています。
治療法も子宮筋腫とほぼ同様です。前回のコラムを見てみて下さい。
薬物療法について追加を2つ。
まずGnRH アゴニストです。GnRHとは卵巣から出される女性ホルモンを調整するために脳から出ているホルモンです。このGnRHを抑えることで女性ホルモンを抑えるということです。子宮腫大に対する縮小作用は最も有効とされますが、抗エストロゲン作用の副作用としての骨量減少の懸念から、最長6カ月間という投与制限があります。当院ではレルミナを採用しており、皆さんに大変喜んで頂いています。
次にLNG-IUSです。これは主に排卵後に分泌されるプロゲステロンというホルモンを付加したT字型の子宮腔内装着器具です。一度装着すると、毎日平均20㎍のプロゲステロンを子宮腔内に5 年間放出し、子宮内膜を萎縮・菲薄化させることで、過多月経・月経痛・慢性疼痛・子宮腫大のいずれにも有意な改善が示されています。ですので定期的にチェックはしなければいけませんが、一度入れたら不都合無い限り5年間入れたままです。ネットには装着時痛みを伴うといったことが載っているようでドキドキしながら来院される方もいらっしゃいますが、私が実施した方に痛みを強く訴える方はいませんし、その後は入ってることも意識することなく過ごす方がほとんどです。ただ大きな子宮筋腫があると装着できないことがあります。当院ではミレーナを採用しています。

次回は子宮内膜症についてお話します。
本年のコラムは今回で最後です。また来年。
どうぞ良いお年をお過ごしください。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

 

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.12.15更新

今日は月経困難症の原因の一つ、子宮筋腫について
子宮筋腫は、子宮の壁に出来る腫瘤(こぶ)のことです。30歳以上の日本人女性の20-30%にみられますので、決して珍しい疾患ではありません。良性の腫瘍でがんではありませんが、女性ホルモンによって大きくなりますので、メカニズム上は少なくとも月経のある間は大きくなる可能性が高いです。また多発性と言っていくつもできることがしばしばで、数や大きさやできる場所によって症状が違ってきます。
症状としては月経量が多くなることと月経痛、つまり月経困難症です。その他に月経以外の出血、腰痛、頻尿(トイレが近い)などがあります。一般に子宮の内側にできた筋腫は小さくても症状が強く月経量が多くなります。逆に子宮の外側にできた筋腫は大きくなっても症状がでない傾向があります。そのため治療必要かどうかも、できた場所や症状によって異なってきます。不妊、習慣流産などの原因となることもあります。
まずは超音波検査で診断しますので、気になる方はチェックを受けると良いでしょう。また市の子宮がん検診等で偶然見つかることもあります。
治療法には手術と薬があります。手術は子宮全摘術(子宮ごと取る)と筋腫核出術(筋腫だけ取る)があります。方法は開腹と腹腔鏡補助下手術があります。もちろん筋腫が小さく症状の無い場合は治療の必要はありませんが、一般に筋腫径が8cmを超えると腹腔鏡下の手術は困難になります。何の症状もなく知らないうちに大きくなってしまい、もはや開腹手術しか選択肢が残されていないなんてことにならないように定期的なチェックで大きさを把握しながらタイミングを逃さないようにしてあげたいと思っています。
子宮筋腫を根本的に治す薬は今のところありません。でも筋腫は女性ホルモンで大きくなりますからこのホルモンを抑えてあげればいいわけです。でも女性ホルモンが少なくなるということは、いわゆる閉経の状態にするということで偽閉経療法と呼ばれます。この療法で子宮筋腫を小さくしたり、出血や疼痛などの症状つまり月経困難症を軽くすることができます。もちろん女性ホルモンの分泌が少なくなるので更年期様の症状がでたり、骨量が減少するおそれがあるため長期(半年以上)の治療できません。ですから薬による治療は、手術前の一時的な使用や、閉経が近い年齢の方などの一時的治療、逃げ込み療法などと呼ばれます。

次回は子宮腺筋症について。
そろそろ年も押し迫ってまいりました。どうぞ生活のリズムが乱れることのないようご自愛ください。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.12.08更新

今回から数回、月経困難症についてお話しようと思います。

いわゆる生理痛のことですが、生理は本来はそれほど痛みを伴うものではないため、生理のたびに強い痛みなどの症状が現れ、生活に支障が出る場合、月経困難症と考えられます。生理痛は我慢するものと考えている方があまりに多いのですが、月経困難症を治療せず我慢していると、そもそも生理痛を生じる原因となる子宮、卵巣その他の病変を見逃してしまう事にもなりかねません。市販の鎮痛薬を使用していても毎月症状がある場合は早めに受診するようにして頂き、診断をつけることが大変重要になります。
月経困難症には、機能性月経困難症と、器質性月経困難症の2つのタイプがあります。
機能性月経困難症は、子宮、卵巣には外見上何ら病変、問題が見つからない場合です。この場合、月経時子宮を収縮させるホルモンが出ますが、そのホルモンにより子宮などが過剰に収縮することで痛みが強く出てしまったり、あるいは子宮の出口が狭いことで経血が出にくかったりして症状が出ます。収縮が原因であることが多いですから、痛みは月経1、2日目が強いです。若い方に多く、大抵は20代前半でおさまります。子宮、卵巣はお腹の中の臓器ですから、子宮・卵巣に外見上問題無いかは超音波等の画像診断によります。痛みが強い場合は、NSAIDsなどの鎮痛薬を用いてやわらげますが、必要に応じて漢方薬、子宮収縮抑制薬、ホルモン療法や精神安定剤を使用することになります。
子宮や卵巣に病変がある場合を器質性月経困難症といいます。病変は子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症などです。これらは機能性月経困難症のように時が経てば自然治癒するということはありません。これらの病変は超音波等で確認することが大切です。後述しますが、これらは進行しますから原因に合った治療が必要になります。痛みも機能性月経困難症と違い、持続性で、月経期間中に痛みがずっとある、あるいは排卵時など月経期以外にも痛みが見られることがあります。
いずれにしましても、まずは診断をつけることが大切です。市販の鎮痛剤が効かなくなった、あるいは効きが悪くなったら必ず受診して下さい。

次回からは、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症など器質性月経困難症の原因となる疾患について順を追って触れていきたいと思います。
本格的な冬到来。生理痛もしんどくなる時期です。ご自愛ください。

根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.12.01更新

こんにちは。だいぶ冬らしくなってきましたね。
本日は卵子凍結について。なぜかこのところ外来で度々ご質問頂くので。

ご存じのように卵子凍結はご自身が出産できるタイミングまで卵子を冷凍保存することです。卵子を卵巣から取り出し超低温で凍結させそのまま保存します。超低温では老化という変化がほぼ起こらないため、理論上は数十年間にわたり現在のままの卵子を保存することができます。妊娠は体外受精、胚移植になります。卵子凍結は癌などで抗がん剤治療が優先され治療で卵子・胎児に影響が出る心配がある方などのために、治療が終わり妊娠可能になった時に安心して妊娠して頂けるようにと開発された技術です。この技術を健康な女性にも将来の妊娠に備えて応用できるようになったということです。「将来パートナーができたときのために卵子凍結をしたい」、「仕事の状況で今は妊娠、出産、育児が難しい」などの理由で、卵子凍結を選択する人も多いようです。
卵子を保存するためには、当然、卵巣の中にある卵子を取り出さなければなりません。これを採卵といいます。採卵は膣から細い針を刺して卵巣内の卵胞を吸い取ります。もちろん麻酔下に行いますがそれなりに負担がかかりますので、できれば一回の採卵手技で多くの卵胞を回収した方が良いということになります。そのため採卵前には排卵誘発剤を使い卵巣内で複数の卵子を育てます。排卵誘発剤はホルモン剤ですので頭痛、倦怠感やむくみなど副作用がある場合があります。
卵子凍結保存には卵子の老化を止め将来の妊娠に備えられる可能性がありますが、今がその時なのかを知りたいという方が以前のこのコラムを読んでくださり質問してくれたようです。これはひと言で言いますと、卵巣にどれらくい卵子の残りがあるかにかかっています。卵子の元となる原始卵胞の数は生まれた時がマックスです。以後は減る一方で精子と違って新しく作られることはありませんので、年齢相当の卵子が残っているかどうかが問題になります。これは以前お話したAMHというホルモンで調べることができます。
いずれにしても、年令と共に子宮、卵巣の病気が増えることは間違いありませんし、卵子の染色体異常が出現する可能性が高くなることも明らかですので、卵子凍結によって卵子の時間を止められることにメリットを感じるのもうなずけます。
ので、あえて卵子凍結の現実についても触れておきます。まず採卵した卵子ですが、凍結する途中で卵子が壊れてしまったり、逆に妊娠を目指し元に戻すため融解する時に変化したりしてしまう可能性があるため、全ての卵子が胚移植に使用出来るわけではありません。海外のデータを含みますが、凍結未受精卵子を用いた胚移植で妊娠が成立する確率は17~41%です。さらにそこから流産や死産などで妊娠が中断してしまうこともありますので、結果、卵子1個から出産にまで至るのは4.5~12%です。
最後に、卵子凍結をするということは、間違いなく妊娠、出産が先送りになるということです。妊娠、出産ということだけを考えれば、年齢が上がれば妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクが上がり、早産や低出生体重児のリスクが上がることも明らかになっています。ご自身のライフスタイルも合わせ良くお考えになって下さい。
こうしたことも踏まえ、我々の所属する日本産科婦人科学会はこの卵子凍結に関する動画を公開しています。学会のホームページからどなたでもご覧いただけますので参考にして頂くといいと思います。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

スタッフブログNEW Babies献立日記