ドクターコラム

2023.11.24更新

今回は、40代以降の女性に多い、手のしびれ、痛み、腫れについてです。

このコラムでたびたび更年期障害について述べてきました。更年期の不調というと、滝のように汗が出る、ホットフラッシュ、首や肩がひどくこる、不眠、不安感や抑うつ感といった症状のイメージが強いかもしれませんが、腰痛や関節痛を訴えたりする人もみられます。特に手指がしびれ、痛みが出てきて、気がつくと手指の関節が腫れてきていた、などと訴える方が多いです。これらの不調については、「長年に渡る手の使い過ぎ」はたまた「年のせい」などと考えあきらめている方が多いです。もちろんそうした手指関節の腫脹については、リウマチなど自己免疫疾患の現れであることもありますので精査が必要ではありますが、更年期に減少してくる女性ホルモンであるエストロゲンが関与している可能性があることが分かってきました。これはエストロゲンには関節の動きを維持したり、腱を保護する働きがあることが分かってきたからです。更年期の時期、手指の関節の動きが悪くなり痛くなってきた、痛いから手を強く握れなくなったなどの状態を放置していると、さらに炎症が進み、腫れ、しびれを伴うようになると、やがて指が関節から変形するといった症状が現れるため注意が必要です。この手指関節の腫れ、変形は長年にわたって家事をし続けている中高年の主婦によく起こり、ヘバーデン結節( Heberden's node)やブシャール結節(Bouchard node)などと呼ばれていますのでご存じの方も多いかと思いますが、この原因が急激にエストロゲンが減少するのを放置することである可能性があるということです。ホットフラッシュなど典型的な更年期障害の症状は比較的急激に発症するので、「そろそろ私も?」と気がついて頂くことも出来ますし、発症が急なだけホルモンを補充することの効果も比較的早く期待できます。しかし関節の変形は、その変形が完成してしまったら元に戻すことは容易ではありません。そこで早めの対策が大切になるということになりますが、ここで知っておいて頂きたいことは、実はこのエストロゲンの減少、30代半ばから徐々に始まっているということです。ですから早めの対策とは、30代の内からエストロゲンの減少に備えて頂くということです。とはいえHRT(ホルモン補充療法:前出のコラムを参照ください)の適応となるほどエストロゲンが減少しているわけではありませんし、また30代からHRTというのもかなり抵抗あるでしょうから、エストロゲンと似た化学構造を持ちエストロゲンと同じような働きをするエクオールを摂取することをお勧めしています。エクオールは大豆などに含まれるイソフラボンの代謝産物であるため、豆腐などたくさん摂ればいいということになりますが、話はそう簡単でないことはこのコラムで以前かなり詳しく説明しておきましたのでご覧頂くといいと思います。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.11.17更新

今日は、早発閉経についてお話させてください。
日本人の閉経の平均年齢は50才と言われていますが、それよりも10年以上早く閉経してしまう方がいらっしゃいます。鬱陶しい生理が無くなり清々したと言う人もいますが、喜んでいる場合ではありません。無月経、つまり3カ月以上月経がないという状態になったということは、それまで生理を回していた女性ホルモンが無くなった、あるいは働くなった可能性があります。この卵巣の機能が低下するという状態を卵巣機能不全といい、40歳未満で無月経となる場合を早発卵巣不全(premature ovarian failure:POF)といいます。POFは40歳未満の女性の1%に起こりうる決して少なくない病態です。POFを発症する要因は様々考えられていますが多くの場合原因不明です。細かい話をしますと、POFには卵巣内の卵胞がほぼ無くなってしまう早発閉経と、卵巣内にまだ卵胞はあるけれどもホルモンに対し反応しなくなり結果として無排卵・無月経となるゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群の2つが考えられています。
いずれにしても、この女性ホルモンが無くなった、働くなったという状態を人よりも10年早く迎えるということは、人よりも10年長く女性ホルモンが不足しているという状態を経験せざるを得ないということです。
先ずこれは人よりも10年早く更年期障害に見舞われるということを意味します。更年期障害につきましては以前このコラムで触れましたのでご参照下さい。更年期障害も大変ですが、より心配なのは高コレステロール血症と骨粗鬆症です。女性ホルモンが月経を回すだけではなく、根本的な女性の健康に貢献している、具体的にはコレステロールを分解する働きと、骨代謝を調整する働きがあることは前回のコラムで述べました。ですから、人よりも10年早く閉経するということは、人よりも10年早くコレステロールを分解してくれる人がいなくなる、あるいは骨を作る人がいなくなるということですから、高コレステロール血症による脳卒中、心筋梗塞等のリスク、そして骨粗鬆症による骨折のリスクが高まってしまうわけです。
ですから、40才未満で3カ月以上月経が無い場合は、必ずホルモン値の血液検査に来てください。また卵巣内に卵胞がまだあるか心配な場合は抗ミュラー管ホルモン(Anti-Mullerian Hormone:AMH)というホルモンを測定することで分かります。検査の結果POFと診断されても、不足したホルモンを補えばいいだけです。ホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy:HRT)につきましても以前のコラムで述べましたので見て下さい。

その他、女性ホルモン、エストロゲンには丸みを帯びた女性らしい身体作り、頭髪や皮膚に潤いを与える等健康的な身体を作る役割も果たしています。思い当たるときは、まずご相談にお越し頂くといいと思います。自身の体験も含め、経験豊富で優秀な女性スタッフも相談に乗ってくれますよ。ものすごく良く勉強しています。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.11.10更新

過ごし易くなってきました。一気に冬に向かいそうです。このコラム、先週(11/3)は祭日でしたのでお休みでした。

前回、更年期中についてお話しましたが、今日は更年期後にご注意いただきたいこと。
市や職場の健康診断でコレステロールが急に上がり、びっくりして駆け込んでくるという方がしょっちゅういらっしゃいます。「若いころに比べて脂っぽい、美味しいものばかり食べてるわけではないのに何で?…」などとやや怒り気味で(笑)。ご存じの通りコレステロールが高いと動脈硬化が進み、脳卒中や心筋梗塞などになりやすくなるなどと言われているのでご心配はもっともです。実はこれ、更年期以降の女性の、ある意味宿命といえることです。と言いますのも、それまで潤沢に分泌されていた女性ホルモン(エストロゲンと言います)は、生理をうまく回したり、妊娠する条件を整えたりするだけではなく、実はコレステロールを分解するのに役立つ、つまり肝臓での特に悪玉コレステロールの代謝を促進する働きをしていたのです。つまり男性と比べて女性は、「若いころはエストロゲンに守られていた」と言っても過言ではありませんが、更年期以降、それまでコレステロールを分解してくれていたエストロゲンが少なくなるわけですから、当然コレステロールが分解されずに残ってしまう、つまり高コレステロール血症になりやすいということです。ですから、更年期以降はこれまで以上に食事に気を使い、適度な運動を心がけて頂くとともに、血液検査等定期的なチェックをお願いします。
次に骨粗鬆(こつそしょう)症。骨粗鬆症は、骨が軽石のようにスカスカになってしまい、骨がもろく折れやすくなる状態です。いったん骨折すると寝たきりになってしまうこともあります。骨も皮膚や髪と同じように新陳代謝を繰り返しています。古くなった骨は壊され、新しい骨が補われています。この古くなった骨を壊す細胞を破骨細胞といい、新しい骨をつくる細胞を骨芽細胞といいますが、この破骨細胞が骨を壊すスピードと、骨芽細胞が骨をつくるスピードの絶妙なバランスで骨量が安定し強さが保たれているのです。一方、エストロゲンには破骨細胞の働きを適度に抑制する働きがあります。つまりエストロゲンが少なくなると、骨を壊すスピードが抑制されず壊され過ぎてしまうため骨量が減ってスカスカになってしまうわけです。ですから更年期以降、骨に対しても骨を強くするための若いころ以上の食事の注意、適度な運動が必要であることは言うまでもありません。またこの骨の変化は痛みが出る、あるいは骨折するまで気がつかないことが多いですから、定期的な骨量測定などのチェックをお願いします。

今回は更年期以降ご注意いただきたい、特に高コレステロール血症と骨粗鬆症についてお話させて頂きました。次回は40才未満で閉経に至る早発閉経についてお話しましょう。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.10.20更新

大分秋らしくなってきました。
今回は妊娠中のインフルエンザ対策です。結論から言いますと、妊婦さんもインフルエンザワクチンを心配なく安全に接種出来ますし、もしかかってしまっても治療薬が使えます。早めの対策をお願いします。

妊婦中は体力や免疫力が下がっているためウイルスに感染すると非妊娠時よりも重症化してしまうことがあることは、コロナ大流行時にざまざま報道されたりしましたので皆さんのご記憶に新しいかと思います。この抵抗力が下がっていることに加え、徐々に大きくなるお腹に肺が圧迫され肺が小さくなってしまっています。この小さくなった肺にウイルス感染による炎症が加わりますと、肺に十分酸素が行き渡らなくなってしまい大変な息苦しさになってしまいます。肺炎で息苦しいということは血中酸素濃度が下がっているということであり、これは赤ちゃんに供給される血液中に十分な酸素が含まれなくなるということを示唆、胎児も苦しくなることは容易に想像できるかと思います。
また赤ちゃんの部屋はたっぷりの羊水で満たされておりその水が母体の熱も緩衝してくれますから、母体の熱がそのまま胎児にいくことはありません。しかし極端な高熱が長時間続きますと赤ちゃんの部屋もさすがに暑くなってきます。胎児の心拍数は1分間で110~160回位、大人の約2倍から3倍でとても速いです。胎児としてはこの心拍数が正常でもちろんこれで問題ないわけですが、部屋が暑くなると大人だってドキドキしてきますから、さすがの赤ちゃんも180回、200回と心拍数が上がりますとヘトヘトになってしまいます。
もちろんインフルエンザウイルスの胎児への直接の影響はほとんどないといっていいですが、このように肺炎の重症化による母体の呼吸困難がもたらす胎児への酸素供給不足、母体発熱による胎児環境の高温化等は影響する可能性があります。
こうした理由から、妊婦さんは感染予防を徹底すること、そして、もしインフルエンザにかかった場合はすぐに治療をすることが大切です。予防には、うがい・手洗い・マスクですが、同時に大切なのが妊婦さんこそワクチンです。インフルエンザの重症化を予防する最も有効な方法は、インフルエンザワクチンの接種を受けることです。もちろん、妊婦さんに対してもインフルエンザの予防接種が推奨されています。妊娠中のインフルエンザワクチン接種が、生後6ヶ月までのインフルエンザ罹患率を下げることも分かっています。生後半年未満の乳児はインフルエンザワクチンを打つことができないので、妊娠中に予防接種を受けておくと生まれた赤ちゃんの健康を守ることにもつながりますね。
もし妊婦さんがインフルエンザにかかった場合、妊娠していない患者さんと同様「タミフル」や「リレンザ」などの抗インフルエンザ薬が使用できます。先週述べましたが、抗インフルエンザ薬は、発症後48時間以内に服用しなければ効果が発揮されないため、インフルエンザを疑う症状が現れたら早めに受診しましょう。

どうもお母さん、赤ちゃんの話になると熱くなってしまい長くなってしまう。以後気をつけます。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.10.13更新

待ちに待った過ごしやすい季節になってきました。これからどんどん涼しくなっていきますが、今年は例年になく早いペースでインフルエンザの流行がやってきそうです。千葉県ではすでに「今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性があることを示す注意報レベル」を超え、インフルエンザの感染が例年にはないような早い時期に広がりを見せています。同時にせき止め薬などの薬不足が深刻な状況になってきそうです。是非早めにワクチンをお受けいただきたいと思い、本日はインフルエンザについてお話します。

インフルエンザ感染症は、インフルエンザウイルスに感染することで、高熱や喉の痛み、関節痛・筋肉痛みなどを引き起こす感染症です。通常、毎年冬場に流行することが多いですが今年は早いですね。重症になると肺炎や脳炎などを起こし、意識障害や呼吸困難などを起こすことがあります。
このインフルエンザウイルスに対するワクチンがインフルエンザワクチンです。接種すればインフルエンザに絶対にかからないというものではありませんが、感染しても発症を70%程度抑えることが出来、また90%という高率で重症化を阻止する効果があります。ですがこのワクチン、接種してから効果が出るまで約2週間かかります。つまり今日接種しても、効果が出るのは月末ということで、その頃には大流行の入り口に入っているかもしれません。ですから本年は早めの接種をお願いします。ただしインフルエンザワクチンはその製造過程で微量ですが卵の成分が入るため、重度の卵アレルギーや鶏肉アレルギーがある方は注意が必要です。接種を受ける前に必ず医師に確認しましょう。
もし突然38℃を超える高熱や関節痛、全身の筋肉痛などの重い症状があらわれたら感染した可能性があります。感染を予防するのがワクチンですが、かかってしまってもインフルエンザには治療薬があります。侵入したウイルスの増殖を抑えることで、症状を和らげたり、症状が治まるのを早くする効果が期待されます。ただし、症状が出てから48時間以内に使い始めなければ効果が乏しいので早めの診断が重要になります。鼻の奥を綿棒で拭うことでわかりますので早めに検査を受けて下さい。
最後に妊娠中の方へ。次回詳しくお話しますが、妊婦さんに対してもインフルエンザの予防接種が推奨されています。治療薬も使えます。また生まれてくる赤ちゃんがインフルエンザにかかる確率が下がることが分かっています。当院でも、例年より早く今週からワクチン接種と開始していますので、妊婦さんこそ早めのワクチン接種、治療をお願いします。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.10.06更新

昨日は定例の院内勉強会でした。医師、スタッフのスキルアップを目的に月一回のペースで行っています。テーマは産科領域、婦人科領域、新生児について等様々で、日ごろ不安・疑問に思ってること、もう少し深く知りたいことなどをリクエストしてくれます。うちのスタッフたちは大変に優秀なので、こちらもしっかり準備して臨まないといけませんから結構大変ですが、勉強になりますし、何より患者さんのためになると思って皆で続けています。
今日は、そんな患者さん思いのスタッフ皆様から「これはあらかじめ患者さんにお知らせしておいた方がいい」と教えてもらった点を。

□不正出血について
生理以外の出血は量、性状、色等に関わらず、すべて不正出血です。原因は生理不順、ホルモン異常、排卵出血、妊娠、子宮筋腫等々様々ですが、「子宮癌からの出血ではない」ことの確認は緊急性があり必須です。出血中でも何ら問題ありません。出血が止まってからなどと先延ばしにしないで速やかに子宮癌検診を受けて下さい。逆に癌からの出血ではないことさえ確認すれば別にあわてる必要は無いわけです。
□排卵日の確認について
不妊治療で必須なのが排卵日の特定です。市販の排卵チェッカーはとても高いですし、ご自身で判定するのがやや難しい場合がありますので、こちらで超音波等々駆使し正確にお教えします。いつ来院して頂いても結構ですが、最初は生理が始まった日を1日目として大体14日目に排卵するとして、その少し前、11~13日目くらいにお越し頂くと良いです。
□緊急避妊ピルについて
有効期限は72時間、3日間です。3日を過ぎると効果が期待できない場合があります。必ず3日以内にお越し下さい。
□月経移動について
旅行、行事などで生理日を移動したい場合、次回生理予定日の5日前から来てほしくない日まで中容量ピルを内服して頂きますと生理を遅らせることが出来ます。ので、出来ましたら次回生理開始予定日の5日以上前に来院ください。不順な方は、想定される一番早い生理開始日の5日前からになります。
生理を早める方法もありますのでご相談下さい。

他にもたくさんありましたがまた別の機会に。
少しいい季節になってきましたね。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.29更新

今回は、漢方薬について少しお話させて頂きます。

漢方薬は中国の薬というイメージがあるかもしれません。しかし、現在、日本の医療で用いられている漢方医学は、2000年近く前、中国から伝わった医学が、その後、日本の風土や気候、日本人の体質や生活に合った医学として発展していった日本オリジナルの医学です。現在の医学部の教育でも必ず漢方について学ぶことになっています。従いまして西洋医学と漢方医学、両方の視点からその人にあった薬を処方するという日本の医療は、世界的にみても非常にまれなことと言えます。皆さん、日本にいて良かったですね。もちろん漢方薬と西洋薬を併用する場合、とくにカンゾウ、マオウ、ダイオウ、ブシなどが含まれている漢方薬には注意する必要がありますので、他に飲んでいる薬がある場合は必ずお知らせください。
漢方は良く分からないというお声を良く聞きます。実は漢方薬の作用機序については研究が進み、徐々に明らかになってきています。例えば風邪のひきはじめに効果を発揮する葛根湯ですが、発熱の急性期に炎症を誘導するIL(インターロイキン)の産生を抑制する作用を持っているため風邪の初期段階において炎症を抑える効果を発揮、また同様に免疫を司るNK(ナチュラルキラー)細胞の活性化を促すことで免疫を高めることが期待されています。このように漢方薬は漠然とした作用を期待するものではなく、西洋薬同様に確固たる作用メカニズムを有することが示唆されています。
漢方薬は食前または食間に服用するようにお願いしています。これは漢方薬がそもそも自然の植物などを原料とする生薬から構成されているので、食品にも含まれる様々な効用と相互作用を引き起こすことを懸念するためです。よく「お茶、ジュースなどで飲んでもよいか?」とのご質問もいただきますが、そのような意味でも漢方薬は水または白湯で飲みましょう。飲む前にうっかり食事を摂ってしまった場合も、慌てずに食間に内服して頂ければ結構です。ちなみに食間とは「食事中」ではなく「食事と食事の間」ということで、食後2時間以降くらいのイメージでいいでしょう。ただ漢方には人によっては胃に負担がかかるものがありますので、そのような方は服用後すぐに食事を摂っていただくようお勧めしています。
また飲み忘れた時はスキップで結構です。一度に2回分服用しないでくださいね。効果が強く出過ぎてしまう場合があります。

そろそろ猛暑の疲れが出るころですね。ご自愛下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.22更新

今日はPMSに対する抗うつ薬の治療についてお話をし、PMSのシリーズをおしまいにします。
月経前の2週間だけひどく気持ちが落ち込むなどの症状がピル等ではなかなかコントロールできない場合、抗うつ薬のSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)を使うとすごく良く効く場合があります。SSRIはセロトニンという脳内神経伝達物質の減少を抑える薬です。このセロトニンが足りなくなると、抑うつ、不安、緊張、イライラなどが高まりやすくなったり、痛みを感じやすくなったりするので、SSRIは主にうつ病の治療薬として使われているわけですが、PMSはうつ病ではないので毎日服用する必要はなく、症状の出る月経周期後半の2週間だけとかという使い方をします。抗うつ薬を処方されると「わたしうつなの?」とびっくりさせてしまうことがあります。くりかえしますが、うつではありませんが抗うつ薬の作用メカニズムがPMSに有効である場合があるというだけです。

ここ数回、月経前症候群(PMS:PreMenstrual Syndrome)についてお話させて頂いてきました。まず、PMSは「ホルモンバランスの乱れが原因ではなく排卵を抑えるといい」ので、ピル、中でも「ドノスピレノン含有」のものが良いと紹介しました。つぎに漢方薬についてざっと述べました。随伴する症状に合わせ、患者さんと一緒にオーダーメイド的に見つけていっています。そして、前回、利尿作用に着目したサプリの紹介もさせて頂き、今回抗うつ薬の話をしました。

最後に一番大切な日常生活です。
適度な運動、適切な睡眠が大切なことは言うまでもありませんが、特に食事について。
イライラすると甘いものが欲しくなるので、PMSの方は特に月経周期後半、チョコなど甘いものの摂取が多くなりがちです。甘いものを食べ過ぎるとその調整でダイエット、特に主食つまり炭水化物、タンパク質を控えてしまう方がいます。甘いものでは当然血糖値が上がり、炭水化物を控えると血糖値が下がります。この血糖値の変動もイライラの原因となるのです。アルコールの摂り過ぎも同様です。またタンパク質は、抗うつ薬のところで触れた脳内神経伝達物質セロトニンの原料です。ですからタンパク質を控えるということはセロトニンが足りなくなることに通じます。要は甘いもの、アルコールの摂り過ぎには用心して頂きながら、是非、きちんと三度三度の食事は適切に摂って頂きますようお願いします。

猛暑も出口が見えてきました。適度な運動を始めるなど生活改善にはもってこいの季節になります。無理のない範囲で出来ることから始めてみてはいかがでしょうか?
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.15更新

少し過ごしやすくなってきましたかね。

今日は月経前症候群(PMS:PreMenstrual Syndrome)治療のサプリについてお話させて頂きます。
サプリの話に入る前に、利尿薬(おしっこを出しやすくする薬)について。
PMSでみられる症状、月経前のむくみ、頭痛、乳房痛、お腹が張る、体重増加などはすべて不適切な水分貯留に関係しています。ですから尿をどんどん出してあげて水分を引いてあげればむくみなどが軽減しPMSに効果があるのではないかと考えられるわけで、実は利尿薬の中にはPMSの治療薬として認められているものがあります。しかし尿量の調整はとても微妙なので安易に利尿薬そのものを使うことはあまりありません。すこしややこしい話になります。9/1のこのコラムで「数多くあるピルの中で、黄体ホルモンの一種である『ドノスピレノン』含有のものがPMSに効果が期待できる」と述べましたが、このドロスピレノン、実は利尿薬であるスピロノラクトンの誘導体(体内で分解されてできるもの)なのです。さらに月経前の水分貯留と精神症状に関係ありとの報告もあり、利尿薬ひいてはドロスピレノンがPMSに効果がある理由と考えられています。いずれにしましても利尿作用のあるものがPMSに良いらしいということになります。そこで利尿作用のあるものとしてビタミンEが注目されています。ビタミンEには8種類ありますが、これまでのビタミンE製剤に入っていたのは主にα-トコフェロールというビタミンEでした。残念ながらこの8種類中で利尿作用の期待できるのは、αではなくγ(ガンマ)、つまりγ-トコフェロール、γ-トコトリエノールの二つ(合わせてγ-トコ複合体といいます)であることが分かっています。このγ-トコ複合体、7/26の更年期障害の治療としてこのコラムで紹介した豆腐などの原料となる大豆に含まれるイソフラボン製剤であるエクオールに含まれています。私は大塚製薬の回し者ではありませんが、このようにPMSにも効用があり、『エクエルプチ』(大塚製薬)は医院でしか手に入らないので当院で採用しているわけです。ピルはちょっと嫌だなという方にはお勧めしています。

今回もやや専門的な話になってしまい申し訳ありませんでした。分かりにくい点は外来で何でも説明しますから遠慮なく聞いて下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.08更新

今回はPMS治療に使う漢方薬についてざっと述べます。これはPMSの患者さんに使ってもらったら劇的に効いてとても喜んでもらったぞという私の個人的な処方経験を含みますし、相変わらずこのコラム、長すぎて読む気がしないというスタッフの不評もあり、あくまでもざっとです。ご覧くださっている先生方もいらっしゃるようですがお手柔らかに(笑)。

当院では婦人科3大処方と言われる、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸を基本にしています。当帰芍薬散は冷え、肩こりなどの方の血流を整えるのでPMSでも第一選択ですが、PMSはイライラ、落ち込みなどの精神症状がある方も多いですので加味逍遥散から始めることが多いかもしれません。精神症状がメインでない方は桂枝茯苓丸もいいでしょう。
これら3大処方で今一つの方は次のステップです。生理痛もある方には温経湯、桃核承気湯、不眠がつらかったら抑肝散、加味逍遥散で精神症状のコントロールが不十分だったら抑肝散加陳皮半夏、むくみが強い方には五苓散、喉のつかえがあれば半夏厚朴湯等々、手はたくさんあります。患者さんと一緒にオーダーメイド的に見つけていきます。全て保険適応です。
漢方薬は、食前に飲むのが効果的です。
次回、もう少し、PMSの治療について。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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