ドクターコラム

2023.12.01更新

こんにちは。だいぶ冬らしくなってきましたね。
本日は卵子凍結について。なぜかこのところ外来で度々ご質問頂くので。

ご存じのように卵子凍結はご自身が出産できるタイミングまで卵子を冷凍保存することです。卵子を卵巣から取り出し超低温で凍結させそのまま保存します。超低温では老化という変化がほぼ起こらないため、理論上は数十年間にわたり現在のままの卵子を保存することができます。妊娠は体外受精、胚移植になります。卵子凍結は癌などで抗がん剤治療が優先され治療で卵子・胎児に影響が出る心配がある方などのために、治療が終わり妊娠可能になった時に安心して妊娠して頂けるようにと開発された技術です。この技術を健康な女性にも将来の妊娠に備えて応用できるようになったということです。「将来パートナーができたときのために卵子凍結をしたい」、「仕事の状況で今は妊娠、出産、育児が難しい」などの理由で、卵子凍結を選択する人も多いようです。
卵子を保存するためには、当然、卵巣の中にある卵子を取り出さなければなりません。これを採卵といいます。採卵は膣から細い針を刺して卵巣内の卵胞を吸い取ります。もちろん麻酔下に行いますがそれなりに負担がかかりますので、できれば一回の採卵手技で多くの卵胞を回収した方が良いということになります。そのため採卵前には排卵誘発剤を使い卵巣内で複数の卵子を育てます。排卵誘発剤はホルモン剤ですので頭痛、倦怠感やむくみなど副作用がある場合があります。
卵子凍結保存には卵子の老化を止め将来の妊娠に備えられる可能性がありますが、今がその時なのかを知りたいという方が以前のこのコラムを読んでくださり質問してくれたようです。これはひと言で言いますと、卵巣にどれらくい卵子の残りがあるかにかかっています。卵子の元となる原始卵胞の数は生まれた時がマックスです。以後は減る一方で精子と違って新しく作られることはありませんので、年齢相当の卵子が残っているかどうかが問題になります。これは以前お話したAMHというホルモンで調べることができます。
いずれにしても、年令と共に子宮、卵巣の病気が増えることは間違いありませんし、卵子の染色体異常が出現する可能性が高くなることも明らかですので、卵子凍結によって卵子の時間を止められることにメリットを感じるのもうなずけます。
ので、あえて卵子凍結の現実についても触れておきます。まず採卵した卵子ですが、凍結する途中で卵子が壊れてしまったり、逆に妊娠を目指し元に戻すため融解する時に変化したりしてしまう可能性があるため、全ての卵子が胚移植に使用出来るわけではありません。海外のデータを含みますが、凍結未受精卵子を用いた胚移植で妊娠が成立する確率は17~41%です。さらにそこから流産や死産などで妊娠が中断してしまうこともありますので、結果、卵子1個から出産にまで至るのは4.5~12%です。
最後に、卵子凍結をするということは、間違いなく妊娠、出産が先送りになるということです。妊娠、出産ということだけを考えれば、年齢が上がれば妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクが上がり、早産や低出生体重児のリスクが上がることも明らかになっています。ご自身のライフスタイルも合わせ良くお考えになって下さい。
こうしたことも踏まえ、我々の所属する日本産科婦人科学会はこの卵子凍結に関する動画を公開しています。学会のホームページからどなたでもご覧いただけますので参考にして頂くといいと思います。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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