ドクターコラム「妊娠中の注意が必要な病態。わたしたちはいつも警戒しています!〜妊娠高血圧症候群〜」

今日は妊娠高血圧症候群についてお話したいと思います。

妊娠高血圧症候群は、このコラムでも何回か触れましたが、特に妊娠中期以降、妊娠前も含めそれまで何も問題なかった方が、突然血圧が上がるなどし母体や胎児にさまざまな症状を引き起こす疾患です。我々産科医が妊娠の管理をする際、最も注意している疾患の一つです。この妊娠高血圧症候群、かつては「妊娠中毒症」と呼ばれていました。大昔からあった疾患のようで、お腹の大きい妊婦さんが突然具合が悪くなるのを見て、昔の人は赤ちゃんから毒が出てこのようになる、つまり「中毒」と考えたのかもしれません。もちろん胎児から出る毒が特定されたことは無く、現在ではこれらの症状を引き起こす原因として血管内皮の障害による血管の異常収縮と血小板減少による血液凝固異常が関連していることが明らかとなってはいます。ですが、なぜこのような血管、血液の変化が引き起こされるかは未だ不明です。いずれにしても原因は胎児ではなく、母体の高血圧が主体であるので、名称が正しく「妊娠高血圧症候群」となりました。
妊娠高血圧症候群は初期には比較的自覚症状が少ないとされています。ただ進行し血圧が上がれば頭痛や目がチカチカする、手がしびれるといった症状を生じることがあります。これは子癇(しかん)と呼ばれるけいれん発作の前兆であることもあり、子癇が治まらない場合は意識障害や脳出血を引き起こすなど、母子ともの命におよぶ危険につながることも少なくありません。また腹痛(胃痛)や吐き気・嘔吐が起こり、それが妊娠高血圧症候群の重症型であるHELLP症候群の前兆であることがあります。HELLP症候群は血液中の血小板減少に伴う肝臓機能の障害によって引き起こるとされています。ですから子宮というよりは子宮よりも上の肝臓が痛むので、しばしば「胃が痛い」などという表現となります。この症状がHELLP症候群の現れであると急激に進行しますので、いずれにしても頭痛、腹痛などの症状がある際は早めに受診をすることが大切です。
血圧の目安としては収縮期血圧が140mmHg以上あるいは拡張期血圧が90mmHg以上になった場合高血圧が発症したといいます。収縮期血圧が160 mmHg以上あるいは拡張期血圧が110 mmHg以上になってしまったら重症です。その他、尿中に蛋白が出ていないかなども含め診断します。妊娠高血圧症候群と診断されたら、軽症であれば医師より自宅療養の指導があり定期的な診察を行うなどの経過観察となります。しかし突然重症化することもあるため、軽症であったとしても医師の判断により入院となる場合もあります。
重症の妊娠高血圧症候群の場合、けいれん予防や高血圧改善の薬を使うこともありますが、様々な治療に反応せず母子ともにリスクが高いと判断された場合は、分娩誘発や帝王切開で妊娠継続を終了させる必要が生じることもしばしばです。

妊娠高血圧症候群は妊婦さんの約20人に1人に起こるけっして少なくない病気です。しかし、繰り返しますが、詳細な原因は未だに解明されていませんので、予防する方法も確立されてはいません。そのため妊娠初期から出来ることは、高血圧にならないための生活を心がけて頂くことです。健やかな妊娠・出産のためにも、妊娠前よりもいっそう健康に留意し、適度な運動、栄養バランスの良い食生活を送りましょう。具体的な相談は遠慮なく。アドバイスはいくらでもします。そして何かあったら、いつでも躊躇せずご連絡下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

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