ドクターコラム「経口妊娠中絶薬についての知識と注意点」

新年度が始まりました。新しい生活・環境を希望に満ちてスタートされている方も多いと思います。

今日はこのところお問い合わせが多い人工妊娠中絶薬(経口中絶薬)について。
2023年4月、いわゆる経口中絶薬「メフィーゴパック」が承認され1年になりました。薬で中絶出来るということは、「病院に行かなくてもいい」「手術しなくていい」「親にバレない」等々、良いことばかりでお気軽に中絶できるとお考えになる方がいらっしゃるようです。もちろんこれまではほぼ手術という選択肢しかなかったので、選択肢が増えるという点では喜ばしいことであることは間違いありません。手術はいずれの方法でも子宮内に器具を入れるために、子宮の内壁を傷つける等リスクがあります。当院では安全な吸引法を採用していますのでまず心配はありませんが、経口中絶薬は子宮に器具を入れることがないので、子宮にも精神的にも負担が少ない中絶法と考えられています。
経口中絶薬「メフィーゴパック」は2種類の薬がパックになっておりそれらを順番に服用します。ます初めに「ミフェプリストン」を内服します。「ミフェプリストンは」妊娠を継続するホルモン(黄体ホルモン)の働きを抑えます。ミフェプリストン内服後36時間から48時間後に第2薬の「ミソプロストール」を服用します。「ミソプロストール」は、子宮を収縮させ内容物を排出させます。この薬は収縮が強くなりすぎることがあるため、ゆっくり吸収させる必要があるため、すぐにのみ込まず左右の奥歯の頬と歯茎の間に入れて30分間かけて口の中で溶かします。
中絶薬は、人工妊娠中絶手術に比べて負担が少なく、入手方法も比較的簡単に見えるため、使用したいと思われる方が多いかもしれませんが、注意も必要です。
まず経口中絶薬の失敗率はおよそ8%で、人工妊娠中絶手術よりも高率です。その上で子宮内の妊娠であることが必須です。妊娠反応陽性だけで使用し子宮外妊娠だった場合、卵管破裂等を引き起こすと命に関わります。ですから必ず医療機関を受診し超音波で子宮内の妊娠であることを確認することが重要です。「病院に行かなくてもいい」は間違いです。また中絶薬は大量出血といったリスクもあります。自己判断で中絶薬を服用し大量出血を来し救急搬送されたとしても適切な処置をスムーズに受けられない可能性もあります。
そのため、現状では経口中絶薬を処方するには2つの条件があります。「母体保護法指定医」であることと、「入院可能な医療機関」であることです。母体保護法指定医とは産婦人科専門医の中から母体保護法に基づいて指定される医師です。また出血などの症状に対応するため、中絶が確認されるまでは院内で待機することが必要とされています。当院はすべての医師が母体保護法指定医であり入院施設も完備していますのでこの中絶薬を処方することは可能なのですが、現状、申し訳ありませんが当院では取り扱いをしておりません。それには様々理由があるのですがそれはまたの機会に。

手軽に使用できると思われがちな中絶薬ですが、このように様々注意が必要です。妊娠したかもしれないと思ったらまずは婦人科を受診しましょう。メフィーゴパックは登録された指定医師の管理の下で使用できる薬剤であり、薬局やインターネットでの購入はできません。しかし海外の経口中絶薬の使用が認められている国ではインターネット上で販売していることもあるようで、こうしたサイトより個人で輸入、使用し、大量出血を来し危険な状況に陥った症例もありました。くれぐれも個人輸入等イレギュラーな方法で入手することなく、くりかえしますが妊娠したかもしれないと思ったらまずは婦人科を受診、相談にいらしてください。
根本産婦人科医院 院長  根本 将之

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